
スカイマークのしくみ
上場企業が、配当性向を高めれば、個人投資家による長期保有を促す効果も期待できる。
証券会社が株式の売買損益を把握し、投資家による確定申告が不要となる特定口座について、証券会社による年末の調整を認め、年間取引報告書の税務署への提出をやめるなど、使い勝手を改善する。
この見直しは、株式譲渡益に関する源泉分離課税廃止が、投資家の株離れにつながることを防ぐという観点からも重要である。
こうした経緯を経て、二○○二年末になって、証券税制の大幅な見直しを盛り込んだ連立与党の税制改正大綱が取りまとめられた。
その内容は、証券投資に対する正しいインセンティブを生む公正で簡素な税制という理想に一歩近づいたものと言ってよい。
まず、株式譲渡益(キャピタル・ゲイン)に対する税率を五年間一○%とする。
年間を通じて損失が残れば、三年間繰越しが可能。
株式の譲渡益と株式投資信託の解約・償還差損との通算も認められこの優遇措置をめぐっては、複雑でわかりにくいという側面とは別に、もともと投資優遇としては不十分との見方もあり、日本証券業協会をはじめ、様々な機関が、株式譲渡益の全面的な非課税化を要望していたという経緯がある。
しかしながら、株式譲渡益の非課税化が、真に「投資優遇」となるかどうかについては大きな疑問がある。
そもそも、わが国では、株式譲渡益は一九五三年から八九年まで、原則非課税とされていたのである。
しかし、そのことが、個人投資家層の拡大や証券投資を通じた国民の金融資産形成に大きく貢献した。
この大綱に基づく改正が実現したことで、一般の個人投資家が、株式や株式投資信託などに投資する場合、収益に対して二○%(五年の特例期間中は一○%)の課税で済み、多くの場合は面倒な確定申告の手続きも不要となった。
二○%という税率は、預貯金の利子と同じであり、一○%という優遇税率は、所得税の最低税率と同じである。
一方、今回の改正によって、一年超保有株式の譲渡益に対する一○○万円までの非課税措置及び元本一○○○万円までの緊急投資優遇措置は廃止されることになった。
この点については、個人による証券投資促進という政策の方向性に逆行するのではないかとの見方もできよう。
確かに、緊急投資優遇措置に限ってみても、投資家に正しく周知されれば、株式市場への一定の資金流入効果をもたらす可能性はあっただろう。
とはいえ、既に触れたように、時限的な優遇制度には問題が多い。
しかも、いくつもの優遇措置が講じられたことは、「複雑怪奇」との批判を呼び起こすこととなった。
優遇措置を整理し、一○%という低税率での課税に統一したことは、前向きに評価できるのではないだろう株高であった。
実は、同じことは、個人投資家層の拡大に成功した事例として、一時わが国で広く取り上げられたドイツについても当てはまる。
ドイツでも、株式譲渡益は長く非課税とされてきたが、これは、決して証券市場振興といった観点からではなく、税制上の所得概念に関する考え方の相違に由来するC一九九○年代後半にドイツで個人による証券投資が拡大したのは事実だが、その最大の原因は、新興企業向け株式市場ノイァ・マルクトの急成長に象徴されるITブーム下での株式投資に対する正しいインセンティブが喚起されるためには、単純に譲渡益を非課税扱いとするのではなく、リスクに対するリターンが、税引き後ベースで十分に見合ったものになるようにすることが重要である。
そのためには、譲渡益に対する課税を調整するだけでなく、株価の下落によって損失が生じた場合に、税負担が軽減される仕組みを設ける必要がある。
そのための一つの方法としては、給与所得その他の勤労所得から株式売却損失の控除を認めるという選択肢もあり得る。
事実、米国では年間三○○○ドルを限度として、株式売却損失の他の所得との通算が認められている。
しかし、株式から生じる所得に対する課税が実現ベースでしか行われないのであれば、そうした制度は、含み損を抱えた株式をタイミングを見ながら売却し、課税所得金額を恋意的に調整するという行動を誘発しかねない。
そこで、売却損失の控除を既に実現している譲渡益の範囲内でのみ認めるという考え方がとられることになるが、その場合、株式譲渡益が非課税とされているならば、損失の控除が一切できないことになってしまう。
もちろん、理論的には、株式譲渡益、譲渡損失を未実現段階で課税、控除するという仕組みも考えものではない。
勧告の所得税に対する基本的な考え方は、確定申告を伴う累進税率による総合課税であった。
実際、そのためには、個人が保有する株式の時価評価を徹底することが必要となるわけであり、実現へのハードルは極めて高い。
一方、配当課税の見直しについても、筆者は高く評価できると述べたが、おりから米国で、ブッシュ大統領が個人の配当課税撤廃をはじめとする証券税制見直しを提案したこともあり、わが国の措置では不十分とする意見も一部にあったようである。
だが、そうした見方は必ずしも正しくない。
ブッシュ提案は、あくまで法人税と個人所得税との二重課税調整が目的であり、法人税を納めていない企業からの配当は、累進税率で総合課税される。
仮に、同じ措置をわが国で導入したとしても、上場企業が業績不振の年にも安定配当を維持する傾向が強いわが国では、仕組みが複雑になるばかりだろう。
また、米国では、株式譲渡益は原則として総合課税されているため、わが国における特例の一○%といった低税率は考えられない。
しかも米国では、議会の審議で大統領の提案は否定され、結局配当を分離課税とし、一五%の税率を課すことに落ち着いた。
わが国と似た仕組みで、税率は米国の方が高いという結論になったわけである。
今回の証券税制改革は、単に証券投資を優遇しようとする政策的意図を明確に示したばかりでなく、わが国における金融税制のあり方を大きく転換させる第一歩となる可能性もある。
わが国の現行税制は、戦後の「シャウプ勧告」を基礎に形成されたとされる。
しかし、商品ごとに課税上の扱いや税率が異なるといった複雑な金融・証券税制は、決して「シャウプ勧告」が想定した当初は、利子も配当も株式譲渡益も総合課税という制度であった。
ところが、この制度は、導入後三年で早くも軌道修正を迫られた。
貯蓄増進を図るために預金利子には少額貯蓄非課税制度が導入された。
他方、株式譲渡益も、捕捉が困難という理由で原則非課税扱いとなった。
配当税制も様々な変遷を遂げた。
これらの修正は、租税特別措置法に基づく臨時措置の名の下に行われた。
実際には、三五年続いた株式譲渡益の原則非課税や一九七一年以降三○年以上にわたる預貯金利子の申告不要や源泉分離課税制度のように、本則が忘れ去られるほど定着してしまったものも多い。
総合課税原則を標傍しつつも、商品の種類や所得区分ごとに課税が異なる複雑な仕組みが形成されたのである。
税制が複雑になると、その隙間を縫う商品も登場する。
雑所得扱いなので二○万円までの「配当」は申告不要という不動産小口化商品はその一つだろう。
インデックス型の株式投資信託と上場投資信託(ETF)のように、商品性はほとんど同じなのに、税制上の取り扱いが全く異なるという不思議な例も現れる。
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